The Devil and Daniel Johnston

h-shark2006-11-10

特に前半が凄いと思った。ほとんどがホームムービーやテープに録音された音で構成されている。執拗に使われる家庭録画録音物を見ているだけで、息が詰まるような濃密なアメリカを体験することができる。アメリカ人はいつも自分や身の回りをレコーディングする、という文化があるがそれが精神の形成に影響することは多分にあると思う。ダニエル・ジョンストンの場合それが「MTVに出演すること」に異様な執念を生むことになる。そして家庭録画録音中毒患者の姿が全国ネットワークで流れた時、本人が成りたかったビートルズとは明らかに違う、異質なポップスターが誕生したのである。


いわゆる、歪んだアメリカの夢。アメリカにおけるホームレコーディングとマスメディアの関係を描いたガス・ヴァン・サントの傑作「誘う女」も思い出した。
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD10454/index.html

(そういえばガスはラストデイズでもボーイズ2メンのMTVクリップを延々流す、という暴挙をやってのけた。MTVというのは改めて影響力デカかったなと思う。僕もMTVっ子だった。)


アウトサイダーアーティストというのは神聖なイメージもあるかもしれないが、結構ミーハーでローなカルチャーが大好きだったりする(そのへんは根本敬氏が紹介する特殊な人達の嗜好に通じていると思う)。ダニエル・ジョンストンビートルズになりたくて、MTVに出たくてしょうがなくて、アメコミが大好きな人間である。ソニックユースがサポートしてくれたことより、シンプソンズのマット・グレーニングに会えたことのほうがよっぽど嬉しそうだった。(僕もシンプソンズ大好きだけど)


あと、ローリーが面白かったなぁ。本当に普通の、健康的なアメリカの女性。ホームムービーで撮られた映像がまさかこんな映画に使われて、女神のように語られるとは思っていなかっただろうな。あとマネージャーのジェフの扱いが酷すぎて申し訳ないが笑った。ウッディ・アレンの引用もナイス。


インディーミュージックが好きな人はもちろん一見の価値はあると思うが、これは一つの完全なアメリカの姿であり(ダニエル・ジョンストンを通した)、アメリカ文化を語る上では欠かせない映画でしょう。ダニエルは簡潔に的確にこう歌っている。「テキサスは何でも大きい。だから僕の問題も大きい。」


しかしSome Things Last A Long Timeは素晴らしい曲だなぁ!


ダニエル・ジョンストン来日公演の時、彼が譜面らしきものを見ながら演奏していたのが気になったのだけど、あれには何が書いてあるのだろう?彼は数字で音楽を作っていると聞いたことがあるのだが。音符じゃなくて数字を見ながら演奏していたのかな?
*写真はデッキに無理矢理接着して貼ったダニエルのイラストです。