ガツン! ニック・ホーンビィ

h-shark2010-03-27

SLAM/ Nick Hornby
前から読みたいな、と思ってた本。やっと読みました。


独身三十男のモラトリアム的な生活を描くのに定評のあった作者(ハハハ、、ハイ・フィデリティを読んで心の中で「ごめんなさい」と呟いた同志、手を挙げよ!)が
はじめて十代の男の子を主人公に据えて書いたヤングアダルト小説である。(著者紹介より)
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%83%84%E3%83%B3-%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%93%E3%82%A3/dp/4834024180/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1269656362&sr=1-1


ロンドンに住む15歳のサムは、優等生でもなく不良でもない、スケボーに夢中の普通の15歳。
サムのヒーローは「スケボーの神様」THことトニー・ホーク。愛読書はTHの「ホーク 職業:スケートボーダー」で、毎日THのポスターに向かって語りかける。

ある日、同い年のアリシアとつきあうようになり、不用意にも彼女を妊娠させてしまったかもしれない、と気づく。
父親になる覚悟が定まらないサムはただジタバタするばかりで、おまけにTHの不思議な力で未来に飛ばされたり、、、(その時THが発する言葉は「地元のパークに通ってるやつらがどうして俺をフクロにしなかったのか、さっぱりわからなかった。俺はときどき最悪のバカ野郎になってしまうらしい」)。

SLAMはスケボー用語で大ゴケするって意味だけど、本書はティーンエイジャーの妊娠というテーマを通して、人生におけるSLAMを描写しており、そこから主人公が乗り越えていくまでの過程にどんどん同調させられるような内容の本だと思う。

ポップカルチャーとユーモアをふんだんに散りばめた軽快な文体を追っていくうちに、読者はいつしか深い内面描写に突き当たることになる。これは彼の他作品と同様の手法かもしれない。


僕はこの本を図書館で借りたんだけど、児童コーナーにこの本は置いてあった。
児童コーナーって何歳ぐらいが対象なんだろう。十歳未満だったらこの本はちょっと衝撃的すぎるかもしれないな。
「ああ、わかってるよ。ぼくが母さんの人生をクソまみれにしたって言いたいんだよね?」
「きみたちみたいな人間ってのは学習しないのか?」
とか大人の人間が読んでもガツン!とくる強烈な表現だと思うし。
(そう、人間関係において子供だけじゃなく大人も含めて、様々な人間が経験する色んなSLAMがこの本には描かれている)


あと、主人公のヒーローがトニー・ホークという設定だけど、ほとんど父親不在という主人公の家庭環境を考えれば、これは正解かもしれない。
スケートボーディング界の父親的存在と言えばやっぱりTH、ということになるだろうし。
(主人公はストリートよりバートやランプ系が好みっぽいようだし。)
スケートボーディングが好きな人ほど、スケートを扱った小説とか映画に関してはマニアックなディテールを求める傾向があると思うけど(これは自分も含めて、なんだけど、、、)、この本に関して必要以上にそういうことを言及するのはお門違い。
表層的な情報のみに終始してると本質的なところ見逃してしまうこともあるだろうし。
この本の魅力はやはり登場人物たちの内面描写を通じて、物語の核心に触れていく過程を楽しむところにあると思うから。


それから、本書によると十代の妊娠率はヨーロッパでイギリスが最高とのこと。そして十代の父親の80パーセントがほぼ15年以上内に子供との関係を絶ってしまう、らしい。
確かにこの本の主人公のような男の子にすれば、これは絶望的な数字だろう。そして今のイギリスのティーンエイジャーにとって本書は強いリアリティを持って読まれていることを想像する。

しかし本書はなんとかハッピー・エンドに終わっている。アバウト・ア・ボーイもそうだったけど、みんなが少しずつ近づきあい、理解しあいながら終わっていくような穏やかなエンディングだ。
ただしこのエンディングはまたしてもTHの不思議な力による「未来の世界」での描写なのだが、僕らが今住んでいるのは「大変な」世界だけど、ちょっとでも良い感じにしていこう、というある種の祈りに似たものを覚えさせる結びだと思う。


じゃぁ最後にスケートボーディング界の「息子」ことライリー・ホークのビデオでも。
(本書にも何度か名前が出てきます。)

ずっと見てたい気持ち良い滑り。ラストトリックすげー。