WASSUP ROCKERS

h-shark2007-02-17


http://www.finefilms.co.jp/wassup/
YOU TUBEで合衆国のどこかでスケートに熱中している少年達を日々眺めている人間にとっては、実に馴染み深い映画。ステアーでダラダラシューティングしてるだけでも僕は見れてしまうから・・・。
スケートボーディングにあまり造詣が深くなく、スリリングな映画演出を求めている人達は肩すかしを食うかもしれないが、この映画は色んな視点で楽しめることができると思うので、色んな人の評価を聞きたいところ。


ラテン系の主人公達が住んでいるロスのゲットー、サウスセントラルではマイノリティ同士の殺し合いが絶えないし、スケートスポットを探しに出かけたビバリーヒルズでも仲間が銃で撃たれて死んでしまう。家庭環境は親達が離婚していたり、母親は風俗で働かないといけなかったりする。そういう「劇的な」状況にも関わらず、映画は主人公達がスケートに興じたり、パンクを演奏したり、女の子達と喋ったり絡み合ったりするシーンを淡々と撮り続ける。


ラリー・クラークは大げさな演出で映像を曇らさせることをさけるため、スリムパンツでスケートボーディングをしているラテン系の少年達の現在の姿をできるだけリアルに撮りたかったのだろう。


彼等はドラッグをやらない。酒も煙草もやらない。喧嘩も意味が無いと思ってる。公園の遊具で遊んでいるだけで充分にハイになれる。狂ってるのは周りの状況で、自分たちが狂ってしまわないようにスケートボーディングしているようにも見える。


主人公の一人キコが、ビバリーヒルズで知り合った白人の女の子ニキとベッドで語り合うシーンは、ラリー自身も「魔法のようなシーン」と自画自賛しているが、文句なしに素晴らしい。一方は暴力が溢れかえっているゲットー出身で、一方はヒステリックに秩序を守ろうとするビバリーヒルズの白人社会で暮らしている。そんなバッググラウンドが全く違うティーンエイジャーの二人が、お互いの抑圧から解放されるように、素直に語り合い、無邪気に戯れあっている。手法的にはエリック・ロメールゴダールを彷彿とさせ、他者同士の会話で演技と非演技の間を揺れ動く様を映し出しおり、二人が分かり合える姿が実に平和的で美しいと思う。ケンパークにおける3Pセックスによる解決より、よりナチュラルでスマートで奇跡的だろう。現代アメリカ映画における宝のシーンの一つとして記憶される価値はある。


また、社会学的に面白いな、と思ったのは、仲間の一人がビバリーヒルズで射殺された時、豪邸で働くラテン系のメイドが主人公達の脱出を手助けするシーン。彼女は携帯電話で、同じラテン系のメイド同士に「私たちの仲間が殺された」と連絡を取り合い、脱出を図るための車を調達する。ビバリーヒルズでメイドとして働く女性達のほとんどはラテン系らしく、ラテン系のネットワークの在り方と、その結束の強さが垣間見れる。現在南アメリカでは各国で貧困層を中心に社会主義革命が盛り上がっているが、その基盤となっているのはこうした民衆達の繋がりの意識で、それが逞しいとも感じるし、また羨ましくも思う。


ファッション的視線も的確で、主人公達が迷い込んだビバリーヒルズのある豪邸で開かれていたファッションピープル達のパーティーで、少年達のスリムパンツ姿に「ワオ、メキシカン・ラモーンズ!クールね!」とオカマ達が萌えている。僕はエディ・スリマンディオールで細身のシルエットで少年性を具現化していたことから、最近のスケーターのピチピチ具合、特にルックスも可愛くてスリムパンツでワイルドなトリックをキメるエメリカのケヴィン・スパンキー・ロングなんかは、ファッションデザイナ達には絶対ストライクゾーンなはず、と思っていたから、妙に「分かる」シーンではありました。良く考えたらこのシーンってあまり必要ないんだけど、多分ラリーがスリムパンツのロッカーズスタイルは絶対ファッション業界にも影響与えるはず、と思って撮ったシーンなのかな、と思う。あるいはそういうパーティーでファッション業界の人に「最近のスケーターってパンツが細くてかわいいわね〜」ていう生々しい感想を聞かされたことがあるためなのか。


そういうわけで私は興味深く見る事ができたのですが(スマートな180キメるな、というところも含めて)、どうしても感じてしまうのが日本側のプロモーティングのズレ。まず「ワサップ」というタイトル。何故ロッカーズまで言わない?大事なのはむしろ「ロッカーズ」のほうだと思うのだけど。日本人は言葉を短くするのが好きだけど、「ワサップ・ロッカーズ」ぐらいの長さならちゃんと言えるだろ。そんなに自分のチンポが短いことを誇りにしたいか。というか私は「ワサップ」だけ言うのが気恥ずかしくてたまらない。「よう!」とか「元気!」で言葉は終わってるし。そんな映画のタイトル、ダサイにきまってるじゃないか。あと、70年代東映風のロゴも外していてヤだし、おぎやはぎ風の「俺たちパンクですけど、なにか?」というのはいい加減すぎて腹が立つ。あまりにも作品に対して失礼。
パンフレットも買ったのですが、執筆者のカルチャー認識がパンク、ヒップホップで終わっていて浅い。もう少しスケート視線が欲しかったところ。執筆者の中で主人公達が好きなエメリカの「This is Skateboarding」を見た事がある人はゼロだと思う。
それから、売店でシールが売ってて、「あ、デッキに貼れる。」と思って買ってみたけど、後で気づいたらタトゥーシールだった・・・200円もしたのに・・・スケートが全面に出てる映画でシールが売ってたら絶対デッキに貼れるもんじゃないといけないでしょ、どのシチュエーションで体に貼るねん、ありえるか!というわけでこれから映画見に行くスケーターの方は、劇場でこのシール発見したら注意してください。